クリエイティブな人生を送るための10の原則:『クリエイティブの授業 STEAL LIKE AN ARTIST』(オースティン・クレオン)より

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AUSTIN KLEON is a writer who draws.(著者のサイト)

 

昔の僕へ
僕はいつもこう考えている。人はアドバイスするとき、
過去の自分に語りかけているんだと。
この本は、僕がいままでの自分に語りかけているものだ。
どうすれば作品が生み出せるのか。
この本には、その答えを10年近く探しつづけてきた
僕のアドバイスが詰まっている。
でも、それを人に伝えはじめたとき、面白いことに気づいた。
僕のアドバイスは、アーティストだけじゃなく、
誰にでも当てはまるんだと。
これから紹介するアイデアは、人生や仕事を
ちょっぴりクリエイティブにしたいと思っている人なら、
誰でも取り入れられる(そう、つまり全員だ〉。
一言でいえば、この本は君のためにある。
君が誰なのか、何を作っているのかは関係ない。
さあ、始めよう。》(p.9)

クリエイティブの授業 STEAL LIKE AN ARTIST
オースティン クレオン Austin Kleon
実務教育出版
売り上げランキング: 34,189

新時代のクリエイター

オースティン・クレオン(Austin Kleon)さんは、作家、アーティスト、講演家です。

《オハイオ州の田舎町に生まれ、道州のマイアミ大学で哲学学士号を取得。図書館員、Webデザイナー、広告コピーライターの仕事をしながら作家を目指し、2010年に詩集『Newspaper Blackout』で華々しいデビューを飾った。新聞を黒塗りにして単語を浮かび上がらせ、詩を綴るというシンプルながらも斬新な手法は、メディアの注目を集めた。》(p.161-162 訳者解説)

いわゆる新時代のクリエイターですね。本文中でも、その作品の一部が掲載されています。

アーティストのように盗め!

これはすばらしい本です。タイトルの副題は《“君がつくるべきもの”をつくれるようになるために》。本書の中で、10の原則を掲げて、クリエイティブな生き方を指南しています。しかし、これがおもしろい。

なにしろ英語の原題が《STEAL LIKE AN ARTIST》です。つまりは「アーティストのように盗め!」。どうしてタイトルが『クリエイティブの授業』なのに、そのアドバイスが「盗め」なのか。挑発的な感じがします。

クレオンさんはこういいます。

一流のアーティストなら、無から生まれるものなんて何もないと知っている。創作作品には必ずベースがある。100パーセント“オリジナル”なものなんてないんだ。》(p.15)

たしかに、多くの作品は自身の経験や過去の作品からネタを「盗んで」いる場合がほとんどです。わたしが思いつく作品をあげてみましょう。

一流のアーティストなら、無から生まれるものなんて何もないと知っている

富野喜幸(由悠季)監督『機動戦士ガンダム』(1979年)のオープニングで、コロニーを地球に落とすシーンのネタは、ロバート・A. ハインラインの『月は無慈悲な夜の女王』(1965年)だそうです。

レイモン・ラディゲは『ドルジェル伯の舞踏会』(1924年)で、フランス心理小説の祖といわれるラ・ファイエット夫人の『クレーヴの奥方』(1678年)をモデルにしました。さらに大岡昇平氏は、ラディゲの『ドルジェル伯の舞踏会』を参考にして『武蔵野夫人』を完成させます。

三島由紀夫も、自伝的な『仮面の告白』(1949年)だけでなく、光クラブ事件モデルにした『青の時代』(1950年)があります。金閣寺放火事件を題材にした代表作『金閣寺』(1956年)、プライバシーという言葉を定着させ「宴のあと」裁判として有名な『宴のあと』(1960年)など、実際に起きた事件をネタにした作品が多数あります。ベストセラーとなった『潮騒』(1954年)は古代ギリシアの恋愛物語『ダフニスとクロエー』(B.C.3-B.C.2)に着想を得ましたし、「豊饒の海」第1部の『春の雪』(1969年)のネタ本は当時発見されたばかりの『浜松中納言物語』(平安時代後期)と本人が告白しています。

夏目漱石の絶筆『明暗』(1916年)は、ヘンリー・ジェイムズの『黄金の盃』(1904年)との類似が指摘されています〔「11 悲劇の後生き延びた女はデーモンになる」『聖母のいない国』(小谷野敦/河出文庫)所収〕)。三浦雅士さんの評論『母に愛されなかった子』(岩波新書)を読んでみると、漱石の人生そのものが作品を生み出したと言っていいかもしれません。

高橋源一郎さんは『一億三千万人のための小説教室』(岩波新書)の「レッスン6 あかんぼうみたいにまねること、からはじめる、生まれた時、みんながそうしたように」で、村上春樹さんの『羊をめぐる冒険』(1982年)がレイモンド・チャンドラーの『長いお別れ』(1953年)に学んだことを、くわしくポイントをあげて指摘しています。

谷崎潤一郎の名作『細雪』は、当時の谷崎の生活そのままを小説にしたようなものですし、多くの小説のモデルが特定されてもいます。太宰治は昔話をネタ本にして傑作「カチカチ山」を書いたり、他人の日記や手紙などを使って「パンドラの匣」「正義と微笑」「女生徒」を書いています。

というか、日本の近代文学作品で「どこかにネタのある本」を探すのはかんたんです。そうでない人を探そうとすると……、たとえば、安部公房さんでしょうか。あまり思いつきません。

ゲーテの『若きウェルテルの悩み』(1774年)も、スタンダールの『アンリ・ブリュラールの生涯』(1835-1836年執筆)も、ドストエフスキーの『死の家の記録』(1862年)も、無から作り上げた《100パーセント“オリジナル”な》作品ではなく、自分の体験をモデルにした「私小説」でした。

未熟な詩人はまねるが、熟練した詩人は盗む

《「オリジナルでなければ」という肩の荷を下ろせば、僕たちはもう無から何かを作ろうなんて思わなくなる。他人の影響を避けようとするんじゃなくて、受け入れられるようになるんだ。》(p.16)

こう考えると「どうしよう、まったくアイデアが浮かばない!」なんて悲観することはないですね。これからは世界の見方が変わります。

《目の前にあるのは、「盗む価値のある」ものと、「盗む価値のない」ものだけなんだから。》(p.14)

この宣言は、鮮烈ですね。でも「やっぱりパクリはだめだよ」と反論したくなります。それについては、本書ではT・S・エリオット(Thomas Stearns Eliot, 1888 – 1965)のことばを引用しています。

《「未熟な詩人はまねるが、熟練した詩人は盗む。無能は詩人は盗んだものを壊すが、有能な詩人はより優れたもの、少なくとも違うものへと変える。つまるところ、有能な詩人は、盗んだものを盗む前とはまったく異なる、独特な雰囲気に変えてしまうのだ」》(p.7)

エリオットは、イギリスの偉大な詩人、劇作家で、文芸批評家としても有名です。代表作は、なんといっても、1922年発表の長編詩『荒地』(The Waste Land)でしょう。《APRIL is the cruellest month, ……(四月は最も残酷な月……)》とはじまるこの作品は、20世紀モダニズム詩の金字塔でもあります。エリオットは1948年にノーベル文学賞を受賞しました。

英文学の歴史に残るくらいの偉大な文学者が、堂々と「盗め」といっています。盗んで、原形がわからなくなるくらいに作り変えよ、と。

ほかにも、クレオンさんの本の中では、パブロ・ピカソ(キュビスムの創始者)やデヴィッド・ボウイ(歌手)、スティーブ・ジョブズ(Apple社創業)、ギュスターヴ・フローベール(小説家)、ウィリアム・シェイクスピア(戯曲作者)など、クリエイティブな業績を残した人たちのことばが、40以上も引用されています。

ここには「盗め」だけでなく「自分のほしいものを作れ」「変化を求めよ」「規則正しい生活をしよう」などのアドバイスが含まれます。ここだけ読んでいても、十分にたのしいです。

クリエイティブであることについて誰も教えてくれなかった10のこと

最後に10の原則をあげておきます。原書の副題は《10 Things Nobody Told You about Being Creative》とありました。

  1. アーティストのように盗め!
  2. 自分探しは後回し
  3. 自分の読みたい本を書こう
  4. 手を使おう
  5. 本業以外も大切に
  6. いいものつくって、みんなと共有(シェア)
  7. 場所にこだわらない
  8. 他人(ひと)には親切に(世界は小さな町だ)
  9. 平凡に生きよう(仕事がはかどる唯一の道だ)
  10. 創造力は引き算だ

一生使える本なのでは?

上に書いたのは「1. アーティストのように盗め!」についてだけです。2~10については、ぜひ手にとって読んでみてください。文章は少ないですが、何度も読み返して、噛みしめてみるべき、価値のある本でしょう。

クリエイティブの授業 STEAL LIKE AN ARTIST
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