高校までの数学をきちんと学び直したい人へ:『長岡先生の授業が聞ける高校数学の教科書数学 (考える大人の学び直しシリーズ)』(長岡亮介)より

著者紹介

長岡亮介(1947 – )さんは、東京大学大学院の理学系研究科「科学史・科学基礎論」専門課程の博士課程を単位取得退学されました。津田塾大助教授、放送大学教授などを経て、2009年から明治大学理工学部数学科で客員教授をされています。専攻は数理思想史です。

その名前は高校参考書の数学コーナーに行けばすぐに見つかります。たとえば東京大学名誉教授の藤田宏(1928 – )さんを中心に執筆された『大学への数学』(研文書院)

にも大きく名前が載っています。これは、いわゆる〈黒大数〉として、数学好きの受験生にはお馴染みでしょう。長岡さんは『本質の解法』シリーズでも定評がありました。ほかにも「数学のおもしろさ」を伝えようとする、教育的配慮の行き届いた参考書を、たくさん書いておられます。

本書の特徴

長岡先生の数学教科書

  • 文部科学省検定教科書6冊が1冊に合本
  • 付属DVD-ROMに「106時間の音声ファイル」「582項の詳細な問題解答PDF」を収録

(旺文社HPの商品紹介はこちらです)

なぜ「教科書」なのか?

《意外に知られていませんが,数学の「検定教科書」には一般の参考書と違う重要な特徴があります.それは,数学をマスターする上で必要な基本事項は,すべて漏らさず,学理と教育的配慮に基づいて,体系的に,また(ほぼ)論理的に,しかも極めて簡潔に説明している,ということです.》(「はじめに」より)

しかしながら《我が国の教科書があまりに禁欲的に凝縮されていて,その結果,教科書の説明は,読者には,しばしば平板で単調,ときには無味乾燥で,その記述の背景にある面白い理論的な話の流れ(これを私は《数学的なストーリー》と読んでいます)が,一般の人には読み取りにく》(同)くなっています。

そこで長岡先生は、独学ではわかりにくい教科書の記述を、音声講義によって補足します。ほんらい教師が教室で生徒たちに納得させるべき《数学的なストーリー》を、かみ砕き、丁寧に、時間をかけて解説します。

これだけの時間をマイクにむかって講義し続けるというのは、かなりの下準備が必要ですし、リテイクも考えれば、相当な熱意がなければできないでしょう。わたしは本書を大垣書店イオンモールKYOTO店でみかけたときに、長岡先生の数学教育にかける熱意と実行力に感動しました。これは数学への愛ですね。

教科書と参考書

ところで現代では、教科書と参考書は、その役割がちがいます。それは教科書が学校で選ばれて生徒に渡されるものであり、参考書が店頭にあるいろいろな出版社や著者の中から生徒じしんが選んで買うのをみてもとうぜんでしょう。教科書は配布物であり、参考書は商品なのです。

教科書は授業で使われることを前提として、勉強ができない、やりたくない生徒から、スラスラとよくできる生徒までを対象に、高校数学レベルの基本的な知識と技術をまんべんなく教えます。

範囲でいえば、大学で習う「集合論」の教科書のはじめの数ページ程度の内容である「集合と論理」や、整式の加減乗除や実数の感覚的な定義についての「数と式」から、微分方程式の一歩手前までになります。本でいえば、数学教育の名著『数学入門(上・下)』(遠山啓/岩波新書)がカバーする内容です(この本は副読本としてもすぐれている)。

 

一方、参考書は受験で高得点を取ることが大前提です。つまりは実用書です。その本で勉強してテストで点がとれなければ売れません。ですから定理や公式の深い意味や理論の美しさなどはいったん置いておき、その使い方や応用法、じっさいの試験問題でどのように解決するのかを中心に解説します。

売れない本は淘汰され、売れる本はそのコピーが他社からも発売されます。時間の少ない受験生にとって、最小限の労力と費用で最大限の見返りが得られることが重要です。受験科目は数学だけではないのですから。かくして、解法テクニック偏重の参考書が氾濫するのはしかたがないことですね。

「分数ができない大学生」と公開講座

ひところ数学者や数学教育関係者から「数学で『問題を解く』ということは、ただ公式を当てはめればいいというわけではない」と、その解法テクニック偏重の教え方に批判があったものです。

たとえば1954年に代数幾何学・複素多様体の研究でフィールズ・メダリストとなった小平邦彦(1915 – 1997)さんが、開成中学の算数の入試問題(昭和60年度)を制限時間内に解くことができなかったことはよく知られています(「原則を忘れた初等・中等教育」『怠け数学者の記』岩波現代文庫p.104-105)。

その対策として、高校生向け公開講座で「現代数学展望」や「数学入門」などが全国の大学で盛んになりました。わたしも2008年夏の京都大学の公開講座に参加したことがあります。おもしろかったのは数論がご専門の加藤和也(1952 – )教授でした。

わかりにくい現代数学の抽象的な内容であってもあえて紹介し、受講者に刺激を与えようとする授業が印象的でした。このときは高校生から年配の方まで、小さな教室に50名ほどが出席していたと記憶しています。

ちなみに、この連続講義は『フェルマーの最終定理・佐藤‐テイト予想解決への道 (類体論と非可換類体論 1)』(岩波書店)へと発展したようです。

ほかにも多くの大学の先生方が一般向けの数学解説書を書くようになりましたし、ちくま学芸文庫で大学数学科レベルの数学書シリーズが刊行されるようにもなりました。たとえばE・アルティンの『ガロア理論入門』(!)が文庫になるなんて、昔では考えられないことでした。

もういちど数学を

長岡先生の本は、ただ高校数学の教科書6冊「数学Ⅰ・A・Ⅱ・B(数列/ベクトル)・Ⅲ・C(行列/曲線/確率分布)」を合わせただけです。

でも、高校の検定教科書は、大きな書店にでも行かないと購入できないですし、6冊全部が同じ出版社で揃っているともかぎりません。本書であれば、1冊買うだけですみますし、また長岡先生の講義もきくことができます。PDFファイルには詳細な解答も入っています。おトクです。

テストや受験から遠く離れた今になって、もういちど教科書をひらいてみると、学生の頃におもっていたより理解できるような気がします。もしかすると気のせいかもしれません。でも、それでいいんです。ぜんぜんわからなくたって、だれに怒られる心配もありません。

「まあ、いいや。また気がむいたときにやろう」と、自分のペースできらくにたのしむことができます。趣味として数学で遊べそうです。いい企画本ですね。

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