『情報処理』2012年05月号別刷「《特集》CGMの現在と未来: 初音ミク, ニコニコ動画, ピアプロの切り拓いた世界」 (情報処理学会)にある開発者・運営者の話

初音ミク公式サイト
VOCALOID2 初音ミク(HATSUNE MIKU) | クリプトン

本冊子の構成

情報処理学会の学会誌である『情報処理』2012年05月号(Vol.53 No.5 通巻566号)が発売してすぐに完売したので、話題となったp.464~494の特集記事「CGMの現在と未来: 初音ミク,ニコニコ動画,ピアプロの切り拓いた世界」の部分を別刷冊子にしたものです。

第44回星雲賞【ノンフィクション部門】(2013年)を受賞されたようです。【追記】

この別刷は、厚さ1㎜、サイズはA3で、30ページていどのパンフレットです。表紙には『VOCALOID2』のパッケージにもあるKEIさんの描く「初音ミク」のイラストが描かれています。

「CGM(Consumer Generatede Media 消費者生成メディア)」とは何か?

「CGM」というのは聞きなれない用語ですが、「Consumer Generatede Media 消費者生成メディア」の略語です。「UGC(User-Generated Content ユーザー生成コンテンツ)」とも呼ばれています。何のことだか、わからないですね。

ネットインフラの普及によって、だれもが「受け手」であると同時に「作り手」になることが以前よりもやりやすくなった現在において、特定の商業クリエイターだけでなく、ほんらいなら「消費者」というカテゴリーにはいる人たちまでもが、ブログやツイッターや動画投稿サイトなどを通して、情報やコンテンツをどんどん発信していくようになりました。

そのなかでもいちばん代表的で、成功している「初音ミク」という現象を、開発者と学者の立ち場から分析し、今後の展望と課題をとりだしてみようという企画です。

ようするに「現代日本のCGMはこんなにすごいんだぞ!」という内容を、「初音ミク」「ニコニコ動画」「ピアプロ」をキーワードにして、関係者と第一人者に書いてもらった論文集の小冊子です。

「編集にあたって」によると、2010年3月10日(水)、東京大学で同タイトルのイベントが開催されました。開催前に2件、終わってから8件報道され、当日は定員700人の会場がほぼ満員になったといいいます。ニコニコ生放送で約4,000人(生放送時は平均610人)、Ustreamで約1,200人(生放送時は平均260人)が視聴しました。

当日の登壇者は4人です。「VOCALOID」の生みの親であるヤマハ㈱の剣持秀紀氏、「初音ミク」販売元で「ピアプロ」を開設したクリプトン・フューチャー・メディア㈱の伊藤博之氏、「ニコニコ動画」を運営する㈱ドワンゴの戀塚昭彦氏、そして『アーキテクチャの生態系』(NTT出版)で「ニコニコ動画」を分析した㈱日本技芸の濱野智史氏です。

論文の数は5本。「編集にあたって」は見開き2ページのサマリーにすぎません。

「CGMの現在と未来」

・「編集にあたって」後藤真孝, 奥乃博(京都大学)

  1. 「初音ミク, ニコニコ動画, ピアプロが切り拓いたCGM現象」後藤真孝
  2. 「歌声合成の過去・現在・未来 「使える」歌声合成のためには」剣持秀紀
  3. 「初音ミク as an interface」伊藤博之
  4. 「ニコニコ動画の創造性 動画コミュニティサービス「ニコニコ動画」の5年間」戀塚昭彦
  5. 「ニコニコ動画はいかなる点で特異なのか 「擬似同期」「N次創作」「Fluxonomy(フラクソノミー)」」濱野智史

おもしろかったのは2.3.4.のシステム開発・運営をされている側の論文でした。ここには「VOCALOID」の開発や「ニコニコ動画」運営にかんする技術や困難、今後の展望と解消すべき課題が語られています。1.はレビューですし、5.は内容は知ってましたけど、わたしには文章が難しくてわかりませんでした。

以下、1.と5.の内容をまとめます。

「初音ミク」に歌わせたい!

じつは歌声合成ソフト『VOCALOID2 キャラクターボーカルシリーズ01 初音ミクHATSUNE MIKU』というのは、たんに画面上の楽譜に音符を打ち込んだら、そのとおりに歌ってくれるだけのソフトです。パッケージにはKEIさんによる「初音ミク」のイラストが描かれていますが、開封したらかわいいフィギュアが入っているとか、インストールして楽しいゲームができるわけでもありません。

「初音ミク」の公式設定は以下の通り。

  • 年齢:16歳
  • 身長:158㎝
  • 体重:42㎏
  • 得意なジャンル:アイドルポップスとダンス系ポップス
  • 得意な曲のテンポ:701~50BPM
  • 得意な音域:A3~E5

以上です。つまり、外見からわかる情報以外は、ほとんど何もありません。性格も、出身地も、好みも、クセも、ありません。中身はからっぽです。もしかしたら、そうだからこそよかったのかもしれません。

「ニコニコ動画」はプラットホームの役割

2006年12月12日に動画共有サービスとしてプレオープンしてから今日まで続く「ニコニコ動画」は、最近の横文字でいうのなら、いわば「プラットフォーム」の役割を担っています。ここにある「初音ミク」の作品は、だれもが投稿できますし、だれもが閲覧可能です。

見ている動画には、ほかの閲覧者によるコメントが随時流れてきます。見ている人は他人のコメントを読みながら、さらに自分のコメントを付けて流すことが可能です。

そうして何人ものコメントが同じ瞬間に重なりあい、画面を埋めつくすほど流れてくると、ふしぎな感じがしてきます。閲覧しているのはたった一人のはずなのに、あたかも「大人数で同じ動画を見ながらワイワイと話をしているような錯覚」におちいるからです。これが濱野氏のいう「擬似同期」の概念です。

画面上のコメントでは、クリエイターにダメ出しをしたり、賛辞を送ったり、動画のすばらしいポイントを強調したりしています。その反応を見た「作り手」は、いいコメントには励まされ、否定的なコメントにはがっかりします。

このように、投稿者は自分の作った作品にたいして、閲覧している人たちから、即座に、ピンポイントで、忌憚のない(えげつない?)意見を直接知ることができます。

「作り手」と「受け手」が一緒になって「初音ミク」作品を作る

ここでは「初音ミク」の動画を介して投稿者と閲覧者が、いっしょになって双方向のコミュニケーションをしていることが見てとれます。つまり、閲覧する人たちは、たんなる「受け手」ではなく「その場にいる参加者」にもなれるのです。

「ニコニコ動画」にある「初音ミク」作品では、音楽やイラストや小説や動画の断片がひとたび投稿されると、それをきっかけにして、いわば「みんなで一つの『初音ミク』作品をいっしょに作り、支援し、共有していく」状態がうまれてきます。

「初音ミク」の原イメージはKEIさんのイラストになりますが、「ニコニコ動画」でまったく同じ顔の「初音ミク」イラストを目にすることは少ないでしょう。むしろ、そのバラエティの多さに驚かされます。

「初音ミク」のイラストを描く人たちは、KEIさんの原イメージをたよりにして、もっと自分の好みに合わせ、デフフォルメしたり、萌え絵にしたり、リアルにしたり、といろんなパターンに調整します。しかし、それらは「オリジナルの擬似コピーである」とはみなされません。むしろ、それらは「あれもこれもが『初音ミク』のバリエーションのひとつである」と並列的に認知されていくのです。

そして、それらのイラストが新しいきっかけを作ります。あるいは作曲する人の創作意欲を刺激して、しばらくすると「初音ミク」の新曲が投稿されるかもしれません。あるいはそのイラストのキャラクターを動画にして、すでに投稿された曲と重ねることもあるでしょう。また投稿された曲をつかって「MikuMikuDance」で踊らせてみたいと考えるかもしれません。そのダンスの評価が高まって「殿堂入り」でもすれば、「◯◯を踊ってみた」と真似をする大学生グループがいるかもしれません。

ずれにしろ、このようにして「初音ミク」作品はどんどん増えていきます。

「N次創作」

いわゆる「2次創作」作品というと、たとえば『週刊少年ジャンプ』(集英社)などの商業誌連載されているヒット作品から、キャラクターや世界観を借りてきてサブストーリーを作るというような、「オリジナル(主)-2次創作(従)」の関係を思い浮かべます。

しかし、「初音ミク」作品では、その関係が明確ではありません。

たとえば「初音ミク」楽曲の人気作になると。投稿された音楽はAさんで、そのアレンジはBさんで、イラストはCさんで、少し改変したイラストαはDさんで、1分半の動画はEさんで、3分のロングバージョンはFさんで、そのMAD動画はGさんで、それを「歌ってみた」のはHさんで、それを「踊ってみた」のがIさんで……と、どんどん続きます。複数のVOCALOIDの声をつかって高音と低音をハモらせてみることもあります。しかも、原曲のアレンジのアレンジをさらに原曲者がとり込んでアレンジをしたり、イラストを動画にしたMAD作品を作曲者が楽しんでいたりと、いろいろです。

みんながだれかの作品をきっかけにして、べつの何かを投稿し、またそれがきっかけとなって、だれかのべつの投稿につながる」といった連鎖反応が起きています。「2次創作」どころではありません。「3次」も「4次」もあるのです。数えだしたらキリがなさそうです。このあたりをベンヤミンの「アウラ」やら、東浩紀氏の「データベース消費」の概念やらを援用して、難しく定義しているのが濱野氏の「N次創作」の概念です。

クリエイターたちを支援する「ピアプロ」が著作権の問題を解決

そのさい著作権の問題が浮上してきます。しかし、クリプトン・フューチャー・メディア㈱は、「初音ミク」発売の3ヶ月後には「キャラクター利用のガイドライン」を宣言し、2次創作を応援するコンテンツ投稿サイト「ピアプロ」を立ち上げました。目的は、アマチュアを中心とするクリエイターが、権利問題に頭を悩ますことなく創作活動に集中できるようにするためです。

この試みは成功して、現在の「初音ミク」の人気に至っています。もし著作権にかんする煩雑な手続きや、きわめてきびしい制限がかかっていたのなら、これほど爆発的な支持を得ることはなかったでしょう。ましてや2011年7月2日(現地時間)に、アメリカ合衆国ロサンゼルスでの海外初ライブ『Anime Expo 2011』の「MIKUNOPOLIS in LOS ANGELES」が実現するなんて、想像すらできなかったのではないでしょうか。

「ニコニコ動画」はネット上の「コミケ」

「ニコニコ動画」の目指しているのは「ネット上のコミケ」でしょう。だれもが、基本的には自由に、できるだけ低いコストでもって参加し、みんなで共有できる、公開の場所を提供しようという戦略です。そのもっとも成功し、もっとも代表的ともいえる現象が「初音ミク」作品の人気です。

ネットインフラが普及して、これからどんどん「一億総クリエーター時代」に突入するなかで、「初音ミク」はこれからの日本のコンテンツ予測をするうえでも、すぐれたサンプルとなっているようです。

本冊子2.3.4.はシステムや技術的な話

以上、本冊子1.と5.のだいたいの要約に、いろいろ付け加えて、かんたんに書いてみました。2.3.4.の「VOCALOID」や「ニコニコ動画」のシステムや技術的な話題については、専門的な内容なので、わたしには説明能力がありません。かなり難しいと考えられる仕組みを噛み砕いて書かれているので、ぜひ本論を読んでもらいたいです。

濱野さんの概念説明など、上の説明では、おおざっぱにしています。厳密な定義に興味のある方は、本文をあたるか『アーキテクチャの生態系』(NTT出版)などを読んでみてください。

日本発のCGMを知るために

いろんな人に読んでもらいたい、おもしろい小冊子です。日本の技術って凄いですね。

関連記事

【花粉症対策】「ZOJIRUSHI 空気清浄機 ホワイト 【~16畳】 PA-HA16-WB」で目のかゆみ、くしゃみがなくなった

3月から花粉症になってつらい時期になりました。外にでるときには、薬局で購入した「アレグラFX」を飲んでしのいでいるのですが、室内にいるときにまで薬を飲みたくないものです。 以前から使っていた空気清浄機は花粉症やハウスダストにほとんど効果がな…

高畑勲監督の映画『かぐや姫の物語』の感想と考察

かぐや姫の物語 公式サイト 高畑勲監督作品『かぐや姫の物語』の原作は、『源氏物語』「絵合」巻に「物語の出で来はじめの祖」とある日本最古の物語『竹取物語』です。映画をご覧になった方はわかるように、基本的には原作そのまんまのストーリーに、かぐや…