ジブリの高畑勲インタビューなど秘話がたくさん:『ユリイカ 2013年12月号 特集=高畑勲「かぐや姫の物語」の世界』(青土社)より

とくに高畑勲監督、西村義明プロデューサー、かぐや姫役の朝倉あきさんのインタビュー、奈良美智さんと細馬宏通の対談がおもしろかったです。

高畑勲監督の細部へのこだわり

高畑勲監督にインタビューされた中条省平さんは、フランス文学の研究者で翻訳も多くされています。学問をされている方によるインタビューだからか、高畑監督が知的レベルを落とさずに話されています。ほかの雑誌より深く丁寧に制作の苦労を語っておられます。

個人的には、次のような、細部へのこだわりを知れたのは良かったです。

《先に寝殿造りを描きこまなかったと言いましたけど、あの簡略な絵に床板を走るダンダンという、僕らにとってはじつに懐かしい響きの、ゆるんだ音を入れてみたら実にマッチしたんです。逆に描きこんだ絵だったら、それに見合うもっと硬い音にしなければいけなかったと思います。木が新建材で作ったつまらない家みたいに、うまいことしならなくて、あの躍動感がなくなってしまったと思います。あの絵だからこそ、うまく人の想像力を換気することが出来るんです。》(pp.78-9)

なるほどなー、と納得しました。いいインタビューですね。

脚本家マイケル・アーントが高畑勲監督の前で泣いた話

西村義明さんは「余談」として、こんな話を語られています。マイケル・アーントという『トイ・ストーリー3』(2010年公開)の脚本家が来日の際にどうしても高畑監督に会いたいと言い、スタジジブリ1階のバーで会われたとき、《非常に緊張していて、いきなり「高畑さんはお時間ないでしょうから、私の半生をお聞きください」と言って半生を話しだした》んだとか。

《むかし五本の脚本を書いたけど、メジャーもインディペンデントもまったく振り向いてくれない。脚本の道を諦めようと思ってさいごに西海岸から東海岸への旅に出たときに東海岸のMoMAでジブリ回顧展をやっていて、そこでジブリ全作品を観て最後に観たのが『となりの山田くん』だったと。自分の書いた脚本はどれも家族のささいな日常を描いたものだったけれど、すべて断られた。でもこの世のなかには『山田くん』みたいになんでもない家族の日常を描いてこんな傑作を作ってしまう監督が残っていたのか。彼が映画を作り続けている以上自分はできると思って、西海岸に戻って一本の脚本を書き上げる。それがアカデミー脚本賞をとった『リトル・ミス・サンシャイン』だと言うんです。『リトル・ミス・サンシャイン』を観た『トイ・ストーリー3』のリー・アンクリッチ監督が脚本を依頼し、その成功によって今度は『スターウォーズ エピソードⅦ』の脚本に抜擢される。そのどれも『山田くん』がなかったら生まれていない。マイケル・アーントは「あなたがいなかったら私は脚本の道を諦めていた、あなたのおかげです」と言ってその場で泣いた》(p.108)

これは高畑作品についての良いエピソードですね。映画もいいけど、スタジオジブリの方の話もおもしろい。

絵を描くプロの視点も具体的でいい

ほかによかったのは、画家で彫刻家の奈良美智さんと、コミュニケーション論がご専門の細馬宏通さんの対談でしょうか。対談の中で、奈良さんは《僕はストーリーに重きをおいて見ている》と言いながらも、< 具体的に一つ一つのシーンの良さを指摘しています。

奈良 顔の表情なんかもぜんぜん違うじゃないですか。それが今までのデフォルメとまったく違って、連続する中の一枚を描くんじゃなくて、ひとつの絵を描く描き方でデフォルメが行われている。だからフィルムの中で、同じ人物でもこの顔とこの顔だけを取ってくると、全く別人の顔にしか見えなかったりすると思うんですね。今までのアニメの中で行われていたクリーンアップとはまったく違うデフォルメで、もっと素材感に近いというか。それは筆とか墨の力なのか。》(pp.160-170)

こういう絵の細かなポイントについては素人にはわかりにくいことですが、プロならではの視点が光ります。

朝倉あきさんのインタビューも、かぐや姫への共感や高畑勲監督の印象などが語られおもしろかったです。アニメーション制作に関わった人、じっさいに絵を描く人の言葉は実感がこもっていて「なるほど」と頷くことが多い内容でした。巻末の資料「高畑勲フィルモグラフィー」も簡便で、ありがたいです。

『ユリイカ 特集=高畑勲』

物書きの方々の評論はいつも通り

一方で、物書きの方々による映画評にはあんまり興味は持てませんでした。有名で、活躍されている方が多いのですが。

印象としては、「映画『かぐや姫の物語』を観て、そのシーンの一部に注目して、自分の知っている『思想』や『歴史』に引きつけて語っている」という感じです。『かぐや姫の物語』を「アニメーション」作品というより、ひとつの「文学」作品として評論しているようです。まあ、『ユリイカ 詩と批評』らしいです。

思想や評論の知識もないし、頭もよくないわたしには、よくわかりませんでした。不勉強で、すみません。

【目次】

特集*高畑勲『かぐや姫の物語』の世界インタビュー

躍動するスケッチを享楽する 高畑勲 (聞き手=中条省平)70
日本一のアニメーション映画監督と過ごした八年間 西村義明 (聞き手=高瀬司)106
無心で演じたかぐや姫 朝倉あき(聞き手=さやわか)

千年を経て甦る物語

かぐや姫の罪 三橋健 83
死の女神がなぜ美しいか 保立道久 87
罪とはなにか 三浦佑之 95
前世の記憶 木村朗子 100

少女×世界=???

「戦闘美少女」としての「かぐや姫」 斎藤環 118
母でなく、救世主でなく、月は輝く 佐藤俊樹 125
小和田雅子の物語 小谷野敦 131
神の成長 福嶋亮介 138

美術とアニメのクロッシング・ポイント

そうめんの光 山口晃 152
描きえない「浄土」 橋本麻里 155

対談

アニメの歴史を変える映画 奈良美智 細馬宏通 158

アニメ史を貫いて、その先へ

線と面 細馬宏通 175
たけのこの「ふるさと」 藤津亮太 182
夢見ること、それだけを考える 土居伸彰 190
にせものへの意識 中田健太郎 200
ファンタジーの行方 高瀬司 209
『かぐや姫の物語』は何を肯定し、祝福したのか。 黒瀬陽平 213

資料

高畑勲フィルモグラフィー 高瀬司 218

総合誌ならではのインタビュー内容

映画の紹介やプロモーション目的の記事と違って、高畑監督の考えに深く迫っているようにおもいました。いくつかの雑誌記事を読んでいると高畑監督はインタビュアーによって話す内容が変わっている気がします。今回『ユリイカ』だからこそ聞けた話も多かったのではないでしょうか。

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