『HUNTERXHUNTER』(冨樫義博/ジャンプ・コミックス)第1話を分析してみた

『HUNTERXHUNTER』(冨樫義博/ジャンプ・コミックス)を読みなおしてみたら、あらためて「すごいな」と思うことがあったので、第1話を分析してみました。

「ゴンの出発」を読者に納得させるシーン

『HUNTERXHUNTER』第1巻「No.001/出発の日」は、たった34ページです。ここには主人公のゴンがハンター試験にむけて出発するまでが描かれています。

この第1話の構成は本当にすばらしい。提出しなければならない情報を、ちゃんと描いて、説得的に示しています。

ポイントは、ゴンが「出発する」ときの説得力のある描写です。はじめて物語に接する読者が「これだったらゴンは出発するのが当然だよね」と自然に納得させることが作者の力量のひとつですが、これが実にうまいんです。

さっそく、読んでみましょう。

冒頭のシーンはなぜ絶海の孤島なのか?

はじまりの場所は「くじら島」です。冒頭で「ハンター」という職業について簡単に語られたあと、すぐ次のページの1コマ目に、大海に浮かぶ孤島があらわれます。ここでは、主人公が「いまはまだ閉ざされた世界にいる」ことがわかります。

となると、まず提示すべきは「この島の中での主人公の位置づけ」です。男なのか女なのか、大人なのか子どもなのか、優しい美少女なのか粗暴な野郎なのか、性別・性格・年齢がはっきりと印象づけられるはずです。

読者がはじめて目にするゴンの姿

そう思って次のページへめくってみると、たくさんの葉っぱで身を隠して、体じゅうにウサギや小鳥や蝶をのせている少年が、大きな樹の枝にすわって沼に釣竿を垂らしています。

そして巨大な魚を釣り上げます。少年の何倍もある大きさの魚です。

これを町に一人で担いでいき、育ての親であるミトさんに「ハンター試験」の申し込みの許可を願います。なるほど、どうやらこれが交換条件だったようですね。

町のみんなは大いに驚きます。「大の大人が5人がかりでも 上がらんかった沼の主を…」「この島じゃ あと10年は釣り上げるものなど現れんと思っとったが…」「たいした子供じゃ」等々。

ゴンは、試験の申し込みをしぶるミトさんに、「約束を守れないような人間にはなるなって 教えてくれたのはミトさんだよ!!」と、非難するでもなく、優しく諭します。

ゴンの性格

いまのシーンはたった5ページです。出された情報を列挙してみましょう。

  • 主人公は野生の生き物と仲よくする無邪気な少年であること
  • 自然の中での暮らし方を知りつくしていること
  • 驚異的な身体能力の持ち主であること
  • まだ子どもであるから未完成でこれから成長する可能性があること
  • ハンター試験への夢と期待を抱いていること
  • 実の親に育てられていないこと
  • 育ての親であるミトさんの教えを大切にする子であること
  • 卑怯なマネをせずに約束を守る少年であること
  • 町の大人からも一目を置かれる人気者的存在であること
  • もうこの島の中でゴンが目標として達成すべき困難がなくなってしまったこと

など。これらを、たった5ページで完璧に描き切っています。さすがですね。

少年漫画の中では「少年」はつねに「冒険を求める存在」である

沼の主を釣り上げることでゴンの達成すべき目標が、この島の中からなくなりました。「沼の主を釣り上げること=この島での最後の達成目標」というシンボルだったわけですね。

ミトさんはゴンがこの島から出ることには反対です。だから「ハンター試験の申し込みの条件」として「沼の主を釣り上げること」を提案したのでしょう。きっとゴンには無理だろうと思っと。

それも軽々と乗り越えられてしまいました。もうこの島の中でゴンが挑戦すべき困難はありません。そうなると、島の外に出るしかないでしょう。ゴンは少年だからです。少年漫画の中では「少年」はつねに「冒険を求める存在」ですから。

しかし、冨樫さんのすばらしいところは、これだけで終わらないところです。

「過去のエピソード=ハンターになる運命」を暗示

このあと、3年前のエピソードが入ります。ゴンがキツネグマに襲われたところハンターのカイトが助ける場面です。ゴンは、カイトから父親が世界でも有数のハンターであることを教えてもらいます。丁寧な描写ですね。

ここでは、「ゴンの体の中には優秀なハンターの血が流れている。だからこの島で一生を終えることはなくハンターになる運命なのだ」ということが示されています。

それだけではありません。3年前から自分が育てることになったキツネグマの子が成長し、森の長になっています。ゴンは最後の別れを告げに行きました。すると森の動物たちが集まってきて、ゴンの出発を見送ります。

つまり、「島の人間だけでなく、森に生きる動物たち(=心をかよわせた子ども時代の仲間たち)も、ゴンがハンターになることを祝福している」ということです。成長したキツネグマの子が、親代わりをしてきたゴンから自立します。これで、ゴンが島を離れても森の心配はいらない、ということです。後顧の憂いなく出発できますね。

「類似」による仕掛け

さらに、ここにはもうひとつ仕掛けがあります。この場面では、読者が無意識のうちに以下のような図式を重ねあわせるように、意図されています。それは

  • 「キツネグマの子(子ども)-ゴン(親代わり)」の関係
  • 「ゴン(子ども)-ミトさん(親代わり)」の関係

という並列関係です。この並列関係を描くことで、ゴンがミトさんから自立していく未来図を、読者が自然に受け入れるように設計されているのです。だから、この次のシーンは、ミトさんとの別れのシーンでなければなりません。

なぜゴンはミトさんに「ハンターってそれだけすごい仕事なんだね」と答えたのか?

最後のシーンは夜の自宅です。ゴンが帰ると、ミトさんは机にすわってお酒を飲んでいます。まだそれほど酔っているようには見えません。もしかすると酔ったふりをしているのかもしれません。

ミトさんは、独り言のようにいいます。あなたの父親は「まだ赤ん坊だったあんたを捨てたのよ」と。「父親に会いたい」というゴンの想いを抑えようとしているのですね。

ここでゴンに「それでも親父に会いたいんだよ!」とミトさんに反論させなかったところが、作者のすばらしい点です。なぜなら、ここで「親父に会いたいから」を出発の理由にしてしまうと、すぐに読者の中で疑問が起きるからです。「親父に会いたいだけなんだったら、べつにこの島から出なくてもいいじゃん。待ってたら返ってくるかもよ。なんなら、親父を島に呼ぶ方法を考えてもいいんじゃない?」と。

でも、ゴンは(というか、冨樫さんは)そうしません。「ハンターってそれだけすごい仕事なんだね」と返すだけです。これは、本当にうまい描き方ですよね。こんな答え方をされたら、ミトさんはもう反論ができないんです。

もともとゴンが「島を出てハンター試験を受けたい」と言い出したとき、それに対するミトさんの対策は「なんとかゴンがこの島から出ていかないように達成困難な条件をだす」でした。だから沼の主釣りを条件にしたのです。しかし、ゴンは難なくクリアしてしまいます。これで、ミトさんは許可せざるを得なくなりました。島の住人もゴンの出発を応援しています。「約束はかならず守らなければならない」ということは、ミトさん自身ががゴンに教えたことです。これを破るわけにもいきません。

そして、ゴンが「父親に会いたいから」と言わなかったことで、「ミトさんと一緒に父親がくじら島に戻ってくるまで待つ」という選択肢もなくなりました。「ゴンをミトさんの所に残してでも父親はハンターになった=それだけすごい仕事なんだね」という言葉は、そのまま「ミトさんをくじら島に残してゴンもハンターになる」という意思表明になるからです。

もうミトさんには、ゴンの出発を止める方法が見つかりません。だから絶句するしかないのです。そして、どうにもならない感情を吐き出すように、「あんた やっぱりアイツの息子だわ!!」と叫んで部屋に逃げこんでしまいます。

でも、ゴンは本心では父親に会いたいんですね。だから次のページで「親父に会いに行くよ!!」とゴンの心の声が書かれています。

すごいですよね。この何気ない話の組み立て方で、ちゃんとキャラクターの心理的な動きを描いて見せている。しかも、きわめて論理的に。緻密な展開です。

別れのシーン

出発の日、ミトさんは父親が「ゴンを捨てた」ことは嘘だった、と謝ります。本当は「私が 裁判で あなたの養育権を ジンから 奪い取ったの…」と涙をながします。

「うん ウソだって気づいてた」。ゴンは知っていました。「ミトさん オレにウソつく時 絶対に オレの顔 見ないもんね」。そして二人は抱き合っておたがいをゆるします。

こんなシーンでも、ゴンの優しさ、ミトさんとの家族の絆のつよさ、どんなときにも観察眼が鋭く、判断が的確であるゴンの性格がしっかりと描かれています。

こうしてゴンは、大海に浮かぶ孤島を離れて、ハンター試験会場へと出発するのでした。

『HUNTERXHUNTER』はキャラクターの心理を丁寧に描いている

うーん、それにしても、これだけ短いページ数の中に、ここまで丁寧に主人公の環境や家族関係や過去の来歴や運命や性格や能力や未来の予感までを、しっかりと描き切るとは脱帽です。本当にすばらしい。

ということで、『HUNTERXHUNTER』第1話「ゴンの出発」の描き方について、大絶賛してみました。もうすこし補足解説もできますが、とりあえずは、以上です。

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